脱出

2/2
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「ギギ‥‥ギギ……」常磐線の車両はゆっくりと沈みかけている。「うぅ、痛てぇ」良平がかすかに声を漏らした。彼の左足は複雑に曲がった鉄に挟まれていた。水はもう6両目の半分まできている。もうすぐで彼の左足も浸るだろう。俺はとっさに電車の手すり?部分らしき棒を彼の足と絡んでいる鉄の間に突っ込んだ。なんとしても助けてみせる。ただその思いで棒をテコの原理を利用して動かす。《ギギ‥‥》鉄が悲鳴をあげる。「ウゥッ!」彼もまた傷口に触る痛みと戦っていた。 少しずつだが、鉄の塊が動いたのが分かった。もう少し……俺は渾身の力をこめて棒を動かした。彼の足との間にわずかなスペースができた。「今だ!」俺は叫んだ。良平も最後の力を振り絞って足を抜く。彼の足は鉄の塊から解放されたが、その傷は歩けないぐらいのひどさだ。「良平!しっかりしろ!」俺は鉄の棒を手放すと素早く彼の左腕を自分の肩に乗せ、自分が左足の代わりになるように彼の体を起こし車両を後にした。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!