始まり

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  それは月の綺麗な夜の事だった。     僕は不意に感じた尿意から、トイレに行きたくなった。   「兄さん……おしっこしたいんやけど……。」   一人で暗くて広い屋敷の廊下を歩いてトイレに行くのがすごく怖かった僕は、二段ベッドの上で眠る兄さんに声を掛けて起こした。   「……んー……。」   眠たそうに右手で目を擦りながら身体を起こした兄さんは、ゆっくりと二段ベッドに掛かったはしごを降りた。     僕達は部屋から出ると、その階にあるトイレへと向かった。   兄さんは怖がる僕の手を握ってくれた。     「兄さん……怖くないん?」   僕が兄さんの手をギュッと強く握って顔を上げると、兄さんの横顔が見えた。     兄さんは僕の方を向いて優しい笑顔を向けてくれた。      「怖くないよ。高良がいるから……ね?」   そう言ってくれた兄さんの顔も、どこか僕と同じで怖がっている様だった。   だからその言葉で兄さん自身を勇気づけている様にも見えた。          
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