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嘘だ。
病室の中央の窓は開け放たれ、肌を刺す冷たい空気と混じりあい、鼻腔を刺激する悪臭が周囲に立ちこめる。
血生臭い悪臭――その臭気の元が何であるか、すぐに分かった。
「う、嘘だ…………」
窓の向こう側、病室に近い桜の木にぶらさがるもの。
それは――人間だった。
顔面の皮膚は焼けただれ、赤黒い肉と骨の一部が外気に晒されている。
身に纏う白衣は赤く染まり、両手は重力に逆らえず、だらりと地面に向かい伸びていた。
俺が驚愕したのは、その光景を見たからじゃない。
その両手には、手首から下がなかった。
鋭利な刃物で切断されたのだろう。
両手からは、ポタポタと一定のリズムで血が滴り落ちている。
そしてその両手首は俺に見せ付けるかのように眼前に置かれていた。
真っ白いベッドのシーツの上。
血でべっとりと染まった紅の鳥籠の中に…………。
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