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見えた世界は、じんじんと痛む頭とぼやけた視界でもはっきり分かるくらい異常で。夢ではないかと、夢だと思うほどで。少年の頭には夢としか思えなかった。
見える色は真っ赤。
赤以外はないようにも見えた。
これはトマト? 絵の具?
これは人参? 夕日?
これは炎? 血?
頭の中に嫌な想像が駆け巡る。赤いものは怖いものだと幼心に分かっている。鼻をかすめる、色んな臭い。時折、痛々しい叫びや泣き声も聞こえる。そして感じる熱、響く銃声、爆発音。
嫌な想像はますます現実味を帯びて、肩を震わせた。肩の震えに合わせて、脈打つ心臓とともに頭もずきずきと痛む。
そっと痛む頭に右手を添えた。添えた指先は滑り気のある液体で湿る。
湿った指先を見ると真っ赤で。
それを見て出るはずの悲鳴は、声にならず小さくかすれて。
震える左手が掴んだものは柔らかくて。
持ち上げてみれば、見慣れた人形の腕で。
それもまた真っ赤に染まり、ヌルヌルとしていて。
この世界の真っ赤の意味が分からなくなった。
違う。知りたくない……。
分かりたくないんだ。
少年はそう思いながら、瞳を閉じた。炎にも似た美しき紅き瞳を。
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