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真っ赤な中で静かにある大小の黒い影。それは真っ赤な世界に溶け込むように、時折上がる黒煙に霞みながらそこにあった。
一人は大柄な男。
体には鎧を装備し、片手には血で汚れた長剣を握っていた。長い黒髪を部分的に血で赤く染めながら……笑っていた。歪んだ笑みでへたり込むもう一人を眼下に。血の匂いがたちこめるこの場所で。
確かに笑っているのだ。
へたり込んでいたのは……幼い少女だった。
少年と同い年くらいだろうか。顔はよく見えないが、肩まである茶色のまっすぐな髪を風に預けたまま、少女はまっすぐ大柄な男を見つめていた。少女の真っ白だったであろう、ワンピースは真っ赤な花を色鮮やかに咲かせていた。
少女は微動だにしない。ただ静かに頬を伝う雫。その雫へと手は伸びる。雫で濡れた男の手は、静かに少女の顎に触れ、頬を包み込んだ。そして、男は呟くように誰に言うでもないような口調で。
静かに、低く。けして忘れる事のない言葉を。
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