四月朔日に嘘を吐く

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食堂、というよりは少し広いリビングか。 黙々と、礼儀正しくと言うべきなのか、お互いに。 そこにあるテーブルを挟んで二人向かい合って朝食を摂っている。 お握りとほうれん草のお浸し、御新香。簡易的な朝食だ。 「…便箋の中の書類持ってる?」 一通り食べ終え、お茶で一服しつつ青年が聞いて来る。 お茶を受け取りつつ蒼髪の子は頷くことで肯定する。 そして便箋をテーブルの上に置く。 「嫌なら無理しなくて良いんだぞ?」 「別に、構わない、今以上に構われるんだったら、受け入れたほうが、気が楽」 「…なら良いけどさ」 便箋の中は学校に入る旨の入学届け…と言うべき物なのか、そういった文面が続く用紙が入っていた。 さらには 『お前のこと、心配というか一人にさせておいたら何するかわからん。もしここに入らないなら毎日顔出しに行くぞ』 という手紙付きであった。 「…傍迷惑」 「あのじい様らしいな…」 苦笑いを浮かべながら書類と手紙に目を通す青年。 穏やかな雰囲気は微塵も崩さす側に居る人達に安心感を与えるだろう、蒼髪の子以外は。 どことなく居心地の悪さを感じつつ、のんびりと食後の時間をすごす。 時刻は7時30分。 その人はやってきた。 「いやぁ~、寝坊しちゃったわぁ~。ごめんね~」 「何時もより早いだけましですね、校長」 青年は呆れながら、声をかける。 パタパタと駆けてきたぽややんとした雰囲気の女性に、校長と。 その校長は息を整え、蒼髪の子を見つめる。 「ふーん、その子が追加の新入生?」 「ええ、その通りです」 「めんどくさいからここでいっか」 「…まあ、場所は空いてますからね。ここ」 蒼髪の子を置き去りに、会話が進んで行く。 我関せず、それで良いかと思った矢先。 「うん、あの叔父様からの頼まれ事だからどんな子がくるかと思ったら」 「…まあそれ程問題は起こしませんよ、きっと」 「…」 お互い顔を見合わせ口々に言う。 そして 「これから宜しくね、慈音■■さん」 砂嵐が聞こえる、耳鳴りがする。 ざらついた音声で消える、その名前。 それはもういらない、必要ないから捨てた。 そう心の中で、嘲笑しながら。 「…よろしく」 表情を変えることなく聞き流す。 雑音の海に溺れたまま。 春風は今は止んでいる。
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