四月朔日に嘘を吐く

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「うん、よろしく」 そう笑顔で校長は言う。 他意はないのだ、善意しかない。 その善意は蒼髪の子にとって、ただひたすらに億劫なもの。 自分に向けるのなら他の人に向けてくれと、願うもの。 「あ、そう云えば自己紹介してなかったね。私、あまみやりな。雨の宮の龍の那、よ」 「ごつい、ね」 「そう?かっこよくて良いでしょ?」 「…俺もいいか?自己紹介、ここのみりくと。此で呑む陸の人、だ」 「…そう」 「露骨に反応薄くない?一様君の担任になるんだけど…」 そうは言うが、学校は未だ始まらない。 蒼髪の子が今日ここに来た理由は便箋に入っていた手紙を読んでのことだった。 そこで疑問。 「…聞きたいことが」 「なぁに?」 問いに答えるのは校長の様だ。 「何で、今日?」 便箋に入っていた手紙に書いていたのはさっきの一文と 『四月一日にここに来い』 その下に書いてある住所通りにここに来た訳だ。 「うん、此この人の家だし何時でもいいやって適当に決めたからだね」 「…家」 「そうだよ、ここ俺んち」 「…そう」 成る程、合点はいった。 でも疑問はまだある。 「…でもなんで、ここ?」 「そりゃあ、顔見ときたいし」 こちらの問いに答えたのは先生になるという陸人。 「これから仕事も一緒にやるしな」 「…どういう意味」 「まぁまぁ、付いてくれば解るさー」 唐突に蒼髪の子の腕を掴み、歩き出す校長、龍那その人。 「どこ、に」 「君も一人暮らしするんだから先立つものもいるでしょー」 蒼髪の子にその意見は尤もだが、もう展開についていけない。 そのまま引きつられ、車に乗って町の商店街へ、との運びとなった。 風に運ばれる種子たちのように、流されて。
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