244人が本棚に入れています
本棚に追加
信長は、その修羅のような空気とは対称的に、袴を履かず、ボロ衣を身体に巻き付けたような実にだらしない格好で登場した。
周りが呆気に取られているのを尻目に、信長は信秀の位牌の前に立った。
彼は、【万松院殿桃巌道見】と書かれた父の位牌を、
黒い瞳でキッと睨み付けた。
『信長よ…※吉法師よ。
尾張を…いや、天下を掴め』
位牌がそう信長に語りかけた。
この声は、信長の心中に響いただけで、周囲の者には聞こえなかった。
信長は、コクリと頷くと、
香盆の中の抹香を手に取り、
その手を位牌の前で高く掲げ、
『天下はこの信長の手で…
先に天下の代価を親父に
呉れてやろうぞ』
と囁いた。
そして、その抹香を位牌に
思いっきり投げ付けた。
その衝撃で位牌は倒れた。
信長は舌打ちすると、
その場を疾風のように去って行った…
※信長の幼名
最初のコメントを投稿しよう!