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それは夢なのか遠い昔の記憶なのか。夢にしてはやけに鮮明に、けれど記憶にしてはそれが誰なのかどんなことを話していたのかが酷く曖昧だった。
いつも通りの一日のはずだった。
太陽はサンサンと輝き、水や葉をキラキラと照させている。見上げれば澄んだ青い空に、頬を撫でる静かな風。
街はいつも通り賑やかで、見知れたおじさんがガハハと陽気な笑い声を上げている。
おばさんは、走り回る悪戯好きの子供たちを横目で見ながら、眉間にしわを寄せて箒を動かしていた。
彼らはボクたちが通ると、行列を作って道を開けて深々と頭を下げる。気軽く声をかけてきた人もいたし、ただ目の前を通るだけだというのに拍手する人もいる。
ボクは綺麗な女の人と手を繋いで歩く。もう片方の手は、背の高い、ちょっと恐い男の人の手が握っていた。
触れ合う両手が暖かくて、ここに落ち着きを感じていた。
いつも通り。
これからいつも通りに日が暮れて、いつも通りに穏やかに青く光る月が現れるはずだった。
なのにこの日の夕暮れの赤い空は、妙に寒々しくて、夜には不気味で美しい、赤い月が浮かんだ。
男の人は赤い月を見て、一瞬険しい顔を作った。
ボクの隣の女の人と話をして、ボクの頭をくしゃくしゃと撫でると、ボクの手を放して慌ててどかに行ってしまった。
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