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あたりがすこし騒がしくなってきた。隠れていた人間たちが脅威が消えたとわかるとおそるおそ外に顔を出し始めているようだ。だが、念のため、それともまだ心が乱れているせいか、さっきと比べれば人口密度が減った気がする。
「あなたは旅人なの?」
「そんなところ。君はこの街の人間?」
「私もあなたと同じね。旅人のようなもの。」
彼女はそう言って2つに結わえたお団子の髪を下ろした。まるで重力に逆らうかのように髪の毛がふわりふわりと中に浮かび、そこだけ風が吹いているかのようだった。それを見た瞬間に、ボクは落胆し肩を落とした。
「君、人間じゃないね」
「ああ、分かってしまった?」彼女は隠しもしないくせにそう言って笑った。
「その髪の動き、不自然だ。」
「…ええ。だって、こうでもしないとあなたに噛み付かれてしまうんじゃないかと思って」
「…ああ、バレていた?」とボクも不敵に笑って見せた。
「だって、私は風の精よ。あなたの纏う血の香りは、私が運んでいるのも同然」彼女はそう言って、口をすぼめて息を吐いた。ふうと小さな呼吸音がして、静かな風をボクの体にまとわりついた。
「魂を持たない風の精霊、シルフ。どうりで気配がしないわけだ。」
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