一つの機会

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「…そういえば、時間が随分遅くなってしまったが、帰れるのか?」 「いえ、それが……」 遠藤の自宅は、時間をあまり気にしていない様子を見る限り、どうやらこの会社に近いところにあるのだろう。 悠紀は、もう帰宅出来る電車の終電は過ぎてしまっていることを正直に、申し訳なさそうに言った。 「――そんな。だったら俺のことは良かったのに」 「俺が好きでやったことですから、いいんです」 「でも、帰りは」 「タクシーでも使おうかと…」 やっぱり、家が近くにあるので大丈夫ですとか、嘘でもそういったことを言っておけば良かったと、悠紀は言ってしまってから後悔をした。これでは、心配や迷惑をかけてしまうではないか。時既に遅しとは言え、遠藤の顔を見ると悠紀はいたたまれない気分になった。 「だったらせめて、タクシー代は俺が出そう」 「ぶ、部長にそんな迷惑をかけるわけにはいきませんからっ」 ポケットから財布を取り出そうとする遠藤の手をすかさず掴み、制する。 「でも」 「…お気持ちだけ、頂きます」 掴んだ手をそっと離すと、失礼します、という言葉と共に軽いお辞儀し、その場を早々に後にした。
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