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「佐倉君」
ふと、机に向かう背中から声が聞こえてきた。はい、と返事をし振り返ると、そこには遠藤が立っていた。
「この書類を今日中に処理してくれないか?」
「…わ、分かりました」
言われるままに、悠紀は遠藤から書類を受け取った。この時、同僚の視線が自分に集中しているのを、悠紀は密かに感じていた。
遠藤は頼んだぞ、と付け足すと、すぐに悠紀の前から立ち去った。
「…なんで佐倉に?」
隣の机で仕事をしている同僚が、不思議そうに首をかしげていたが、
「たまたまだよ」
と、はぐらかした。
それからすぐに周囲の視線は離れていったので、悠紀は気を取り直して遠藤から渡された書類に目を通した。
(……?)
何枚かある書類の中に、メモ帳程度の用紙が挟まっており、手にとってみると、何やらメモがされているようだった。
よく見てみると、驚くことに『佐倉君へ』という書き出しである。どうやら悠紀に宛てたものらしい。
すかさず腰をかがめ、このメモ用紙に書かれている内容が周囲の人間に見られることを避け、改めて目を通してみることにした。
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