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『この前の礼がしたい』
ただそれだけが、メモ用紙に整った字体で簡潔に記されていた。
読み終えると、悠紀は上体を起こし、デスクに向き直った。メモ用紙は引き出しにそっとしまい込み、何事もなかったかのように業務を再開した。もちろん、何とも思わなかったわけでは決してない。
用紙には本当にそのようなことが書いてあったのか?自分の見間違いかもしれない。
今すぐにでも、引き出しの中のそれを取り出して確認たい。
悠紀は、そういった気持ちを抑え、遠藤から渡された書類の作成に取り掛かっていた。
心の隅で僅かに期待を抱いていたことが半ば現実として悠紀の前に現れたのだから、本来ならば両手をあげて喜びたいところである。
最近の自分はツキが回ってきているに違いない。
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