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「…ああ、そうだ」
遠藤が不意に口を開いたので、悠紀は気の抜けた顔で遠藤を見た。
「あのメモは見てくれたか?」
悠紀はその言葉の意味するものを思い出すのに僅かな時間を要したが、それがあの書類の中に密かに入れられたあの一枚のメモ用紙の存在を思い出し、こくりと頷いた。それを見て、再び遠藤が微笑する。
「そうか。君さえよければ、今夜飲みでもどうかと思うんだが」
「それじゃあ、お言葉に甘えて…」
遠藤の要請を何度も断るのは気が引けると思った悠紀は、今度はすぐにそれを承諾した。そもそも当初から内心では悠紀もそれを望んでいたのである。
承諾を得た遠藤は、仕事が終わり次第連絡をする、と言い残し仕事へ戻っていった。悠紀達の働く一室へと歩を進めないところを見ると、遠藤はまだ多忙だったのかもしれない。悠紀は申し訳ない気持ちになった。
それから悠紀も仕事場まで急いで戻り、すぐさま仕事へとりかかった。仕事を残してしまうと、この後の遠藤との約束が果たせなくなるかもしれないからである。憧れるのみであった存在の彼と、悠紀とが更に関わることになるとは、悠紀自身も思っていなかったぶん、喜びも大きい。
これを楽しみにしない理由など、悠紀にはなかった。
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