一つの機会

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正面口は既に施錠されているため、悠紀は社員用出入口のほうへと足を進めた。廊下は薄暗く、自分の足音のみがこの空間に響き渡っている。 この孤独な状況から一刻も早く脱するためにも、電車に乗り遅れないためにも、悠紀は歩く速度を早めていく。 途中、分岐点に差し掛かったとき、悠紀はそこから延びる一つの影には全く気付かず通り過ぎようとした。 その瞬間、悠紀の身に衝撃が走った。 「うわっ!?」 「っ!!」 反動で、悠紀が地面に倒れ込む。あまりに突然な出来事に、悠紀は急ぐあまり壁にでもぶつかってしまったのかと思ったのだが、どうやら違うようである。 「…大丈夫か?」 「え」 頭上に降りかかる聞き覚えのある声に、悠紀は驚き顔を上げた。 薄暗い中見えた、うっすらと見えたさらりと揺れる黒い髪、それと同色の瞳。きりっと整った顔。そして品の良いスーツを身に纏った人物。 それはまさしく悠紀の上司である遠藤だった。遠藤は漆黒の瞳で心配そうに悠紀を見、未だ立ち上がらない悠紀に向かって手を差し延べていた。 「まさか、今の衝撃でどこか痛めて…」 「あ!いや、違います!立てます!」 悠紀は鞄を拾い上げると、遠藤の手を借りずに、素早く立ち上がった。 遠藤が怪訝そうにこちらに視線を向けている。
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