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「ああ、そうだった。実は、この近くで落としてしまったようでな……」
眼鏡がないとこの暗がりでは小さなものは見つけることが難しい。もしかしたら探している最中に誤って踏み付けてしまったかもしれない。電気をつけられれば良いが、スイッチが見つからず苦労している。
そのようなことを、遠藤は溜息混じりに悠紀に話した。
「…俺、探しましょうか?結構夜目が利くんです」
悠紀は遠藤にそう言うと、返答を待たずに周囲の探索を始めた。
「あ、いや、部下に迷惑をかけるわけには…」
「……」
遠藤の制止も聞き入れようとせず、悠紀は黙々と彼の眼鏡を見つけ出すべく、床へと目を凝らした。
電車に乗り遅れてしまうことは、今こうしている時点で必至である。今更何を急いでも、無駄だった。
それに、この好機を利用しない手は悠紀にはない。どういった形でも、やっとのことで自身に与えられた、遠藤との接触の機会。これを逃せば、これから先この人間と関わることはないかもしれない。
その思いが、悠紀を現在の行動に至らせていた。
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