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「けっ!張り合いのねぇ」
男は力尽きて倒れたヴァンパイアに近づき、死を確認してそう言葉を吐き捨てると少年に目を向ける。
その少年を見る瞳は先程とは違い多少ながらも柔らかな優しさを宿しており、それを確認できた事により少年は少しホッとしたような表情を見せる。
「生きてんのは、おまえだけかぁ?」
「……たぶん」
じっと興味ありげに男を見つめていた少年は、突然の男の問に一瞬戸惑ってしまうが、すぐに首を縦に振り一言だけ言ってうつむいてしまう。
じっと少年を見つめたままの男と俯いたままの少年の間を、燃えた建物や木材の灰と共に風が通り抜ける。
少年の心の内に住み着いてしまった恐怖と不安は、元凶であるヴァンパイアが死んだからと言って簡単に消えるものでは無いだろう。
「死んだの?」
そして、お互いの間にしばしの沈黙が流れた後、少年はゆっくり顔を上げ倒れたヴァンパイアを見ながら男に聞いた。
「ああ、おまえも死なないように気をつけろよ」
少年の問にそう一言だけ言葉を返し、その言葉とは裏腹に心配する様子もなく踵を返し少年を置いて立ち去ろうとする男。
「殺せるんだ」
だが少年は男を呼び止めようとするかのように、暗く静かにそう一言吐き出した。
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