銀狼と皐月

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「まぁ…こんなもんだろう。」 拾った財布の中を確認しながらロウは言った。 決して高い金額ではないが,これだけあれば何日かは食料に困らなくてすみそうだ。 使い古した天然ダメージジーンズのポケットにクシャッと札を突っ込む。 あいにく空腹を抑えてでも拾った財布を警察ギルドに届けるほどロウはお人好しではない。 お人好しのまま空腹で死ぬくらいなら拾った財布は迷わず頂いていく。 「もう村が見える所まできてたのか。」 風に独特の銀髪をなびかせて,ロウは煙草の火をつけて歩き出す。 ロウ・クラウディ。 職を持たない旅人。 銀色の短髪は地毛で,それが証拠に顎に伸ばしたひげも銀色をしている。 背中にしょっている大きなギターケースにはアコースティックギター。 たまに食料や適当に使えそうな物も一緒に入れている。 服はTシャツにジーンズ。 旅をするのにはラフな格好が一番だ。 ロウは極めて普通の青年だ。 普通の青年に見えた。 行き交う人々誰もがロウのことを『普通の青年』だと思っていた。
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