銀狼と皐月

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先程うざったいくらいに勧誘された中でロウは一番安い宿を選んだ。 普段はベッドで一夜を過ごすことより食料を重視していたロウだが,今日は臨時収入もあったので素直に宿をとることにした。 「まぁ,あの金の元持ち主もひとりの旅人を救ったと思えば安いもんだろ…。」 ボソッと独り言をつぶやいた後,ロウは久しぶりのベッドの中に沈んでいった。 「もうっ!! 久しぶりにベッドで眠れると思ってたのにっ!! すった財布を落としてしまうとは…不覚!」 漁業と宿屋が盛んな村の夜の空き地で,少女の声がこだました。 「村の外まで戻って探したのになくなってたんだもんなぁ。 きっと拾ったやつ,おいしいもの食べて今頃宿屋のベッドで爆睡してんだろうなぁ…。」 夜の闇に響いていた威勢のよい声は,それに呑まれるように次第に弱まっていった。 月明かりのない闇は次第に人の心を負で満たす。 少女はグスっと涙をこらえ,頭まで隠して毛布にくるまる。 そして小さくつぶやく。 「負けんなっ,あたし。」
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