銀狼と皐月

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「ハイハイごめんねえ~。」 サツキは人混みをかき分けながら青年の唄に聞き惚れている哀れな人々の財布をポケットから抜いていく。 サツキの前に人だかりができれば,そこはもう彼女の独断場だ。 ―と,さすがに持ちきれないので盗みはここまで。 ―へへっ。大量ォ。 盗った財布をバックに詰めると,気付けば目の前では銀髪の青年がギターを持って唄っていた。 知らない間に先頭まで出てきてしまったらしい。 ―やべっ。 サツキは人混みから出ようとするがそれよりも先に歌声が耳に入ってくる。 「あ…。」 周りの哀れな人々同様,サツキもその場で立ちつくして青年の唄を聴いてしまっていた。 「―どうもありがとう。」 ロウは軽く頭を下げて,気付けば広場全体に集まっていた人々に礼を言った。 拍手が喝采した。 小さな村の広場の日常ではあまり見ない光景だ。 自分の前に置いておいた空のギターケースに次々と金が投げ込まれていく。 中には手渡しで札をくれた人もいた。 中には金を投げようにも財布がないことに気づいて体中を手で確かめている人もいた。 目の前には未だに立ち尽くしているボーイッシュな少女もいた。
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