プロローグ

3/18
前へ
/93ページ
次へ
   ボールを直してからは、辺りをぶらぶらしつつ教室に戻ると、教室入口で一人の少女に捕まった。 「また、勝手にサッカーボール持ち出してたでしょ?」  月すらもない深淵の夜色。そんな色を持った腰程までにある髪を携えた少女だった。目は大きく、淡い茶色で微かに濡れて、唇は淡いピンク色。そして目を奪われる程に美しい顔の持ち主。 「げっ、なんで知ってんだよ。唯夏」  純也は彼女を唯夏(ユイカ)と呼んだ。 「もちろん、その一部始終を目撃したからです」  唯夏はフフンと笑う。 「唯夏……たの……」 「唯夏ちゃーん。」  不意に純也の後ろから晶が飛び抜けて唯夏に飛び込んだ。唯夏はそれを見事な身のこなしでかわした。 「あれ~なんで逃げんのぅ?」 「抱き着かれたくないからです」  唯夏はしれっと言った。 「俺と付き合ってぇー」 「お断りします」  唯夏はにこりと笑い、ぺこりと丁寧に頭を下げた。 「毎度のことだけどさっさと諦めろよ。暑苦しい」  純也は心底ウンザリしたように、晶を見た。 「んだとぅ」 「大体お前は女だったら誰でもいいんだろ?」 「うーん」  晶は心底悩んでいるようだ。純也は苦笑する他ない。 「やっぱり。そこで悩む時点で女だったら誰でもいいんだろ? この女たらし」  晶の顔が崩れた。そして首を横に振る。 「違う。俺はすべての女性が好きなんだ」 「それを女たらしって言うんだ」    晶は胸を突き抜かれた感覚になってその場に立ち尽くした。 「まぁ、こいつは無視して……唯夏、頼む先生には言わないでくれ。また内申下げられたら、親に殺される」  これは心底の頼みだった。ならば最初からしなくければ良い、というのは純也にとって無益な話だ。 「言わないであげても良いけど条件があるんだよねぇ」 「何? 何でも聞くから」 「今日買い物付き合って」 「………それだけ?」  呆れ気味に言った途端だった。背後から殺気を感じた。それは晶からの殺気……否、クラスの男子全員からだった。  ――そういや、唯夏ってモテるんだよなぁ。  
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加