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あの日の放課後。
一年の時の教室へ移動すると。初めて彼女が先に来ていた。
しかも、僕の定位置で校庭を眺めている。僕は数瞬迷った末、勇気を出して自分から話し掛けた。
「何で外を眺めているの?」
僕の言葉に、彼女の肩が揺れる。
軽口が返ってくると思っていたのに、彼女は黙って振り向いた。
不意をつかれ、驚いた表情。
その目から…雫となった液体が地へと落ちる。
涙だったんだ。
「…ご、ごめん……」
認識した瞬間、僕は慌てて彼女に背を向けた。そのまま、立ち去ろうとする僕に……彼女の『挨拶』が、返ってきた。
耳に届き。
僕の足が、固まる。
僕はゆっくりと振り返りながら。
彼女から放たれた、言葉の意味が理解出来ず…もう一度、頭の中で再生しようと試みた。
彼女が歩み寄り、僕の前で立ち止まる。
その光景を、訳がわからないまま、見つめた。
ほんの少し背伸びをして、優しく頬を包まれる。白い彼女の顔が、息のかかる位近づいて……
僕らの唇が触れ合う。
その時になり、やっと彼女の挨拶が再生された。
「キス、しようか」
彼女はそう、僕に呟いた。
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