思い出は胸の中

12/20
前へ
/30ページ
次へ
「……ごめんっ!」  引き離すように体を遠ざけると、僕は教室を飛び出した。 ああ…またルール違反。 帰る時はそっと立ち去るはずだったのに。  火照ったままの体で、昇降口へ掛け降りると…僕は立ち止まる。 ……胸が苦しい。 うまく息が出来ない。 僕は乱れた呼吸で泪目になりながら、後ろを振り替える。 彼女は追い掛けて来なかった。 そして、僕もまた。 引き返す勇気が無かった。 ぐちゃぐちゃになった頭のまま、上履きを脱いで、乱暴にしまい込む。 外へ出た時、淡い霧雨に包まれて、僕は顔を上げた。 なんでだろう。 窓から彼女が見ている気がしたんだ。もちろん、それは僕の空想に過ぎず、彼女の姿は見当たらなかったけれど。 そして、終わったと思った。 この時は、もう今までの関係ではいられないと、感じていた。 そんな事、望んでいなかったはずなのに。 僕は彼女の事を、どう思っていたのだろう? わからない…… 本当に、わからないんだ。 不確かな関係、曖昧な感情。  僕は指先で、そっと自分の唇に触れた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加