思い出は胸の中

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 それがきっかけで、会話は徐々に増えていった。 「空を何もつけずに飛ぶのが夢だったから。未練がましく見ているだけ。君には叶えたい夢がある?」 「夢……かぁ。笑わないでね?お母さんに、なりたかったよ、昔」 照れたように小さく笑い合った。 順序を無視した、僕らの触れ合い。名前すら尋ねることは無く……好きな匂い、昨日見た夢、生まれてから一番古い記憶の話。  一時交した会話が終わると、それぞれの世界へ戻り夢想する。 ただ、それだけの事が淡々と積み重なっていく。  僕にとって、なんて心地のいい関係だった事だろう。 押しつけも、互いの価値観を無理に合わせる事もない、不確かな関係。 ただ放課後に訪れる、静かな時間と空間の共有は……次第に日常へと変化していったんだ。 ―…当たり前の風景に、変わった。
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