その弐

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 日が西の空に傾く頃、しのぶは共同調理場に向かって歩いていた。すると、 「しのぶ、お疲れさま」 と、声をかけられた。幼なじみの春乃がほほ笑みを浮かべて立っている。 「今日、見回り班だったんでしょ?何か変わった事はあった?」 「…あ、ああ。ちょうど良かった。春乃、こいつを頼む」 と言うと、担いでいたものを目の前の地面に無造作に置いた。 「…あっ」  春乃はそれを見て思わず息を呑んだ。 「これって…」 「ああ。見回りの最中に襲われたんだ。もう死んでいるから、いつもの様に…」 「嫌よ!絶対嫌!」  春乃はしのぶの言葉を遮って叫んだ。そして、 「…私には、…できない…よ…」 とだけ言うと、力なくその場に膝をつき、今となっては肉の塊となってしまった…少し前までは生きていた筈の物を、涙を浮かべながら見つめた。 「だけど、春乃。お前だって、小さい頃は気にしないで口にしてたじゃないか」  しのぶは思い出していた。自分の両親や春乃の両親がまだ生きていた頃の事を。皆でとる楽しい食事。幼い春乃は父親の膝に座って、具の少ないスープに入った肉のかけらを、ご馳走のように大事に、そしておいしそうに食べていた…。
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