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集合場所である大扉の前にはまだ誰もいない。いつものことだが、十分ほど早く着いてしまった。
スワニは右の果てを眺め、ぐるりと首を動かして左に視線をうつした。
生まれる前からここにこれだけの仕切りがあることは、スワニも学んで知っていた。しかし、意識の外に締め出してきたこともあり、その巨大さを直接感じることは今まで無かった。
見る限り壁が続いている。
どうやって積み上げたのか、見上げていると首が痛くなりそうだ。そして中に入るには、扉を開けねばならない。
その扉がまた、大扉と呼ばれるだけあって大きい。
平均身長の成人男性が縦に三人並んで通行できるようなサイズ。横幅は大型トラック二台分。重い素材でできていて、専用のねじ巻きを使わなければ開けることができない。
集合場所の前にはまだ誰もいない。十分ほど早く着いてしまった。本当に、いつものことだ。
スワニの思考が、からりと回る。
役人というものは、だいたい時間ピッタリに到着する。仕事を投げてしまえば、もう関係ないと思うものらしい。
スワニは気長に待つことにした。一日三本と決めているタバコを取り出す。くつろいでいたって、咎める者は誰もない。
* * *
集合時間から三十分経った。
壁の向こうからはみ出した砂にいい加減目が痛くなった頃、街道の方から四角いごつい影が、砂を巻き上げながら近付いて来るのが見えた。
これでやっと仕事に入れるとスワニは腰をあげた。きっと今回の仕事を依頼した役場の人間で、細かい指示を受けることになるだろう。
やれやれ、本当に役人というものは。
だが、スワニの予想は見事に裏切られた。
石の通りを重い音を響かせながら現れたのは、重車両を操る同僚が一人。足が無ければ困るからとキャタピラ車が導入されていたのを、スワニはすっかり忘れていた。
「悪い悪い。待たせたな」
一般道は規制が掛かっててさ。こいつじゃ抜けられなかったんだ。
遅れた理由をいくつも並べながら同僚は車から降りた。そのままねじ巻き機に向かう。どうやら開けようというらしい。
「役場の人たちがまだなんだ」
同僚はねじ巻き機にかけた手を一瞬止めてスワニを見たが、はじけるように笑い出した。
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