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由美ちゃんとの登下校の時間は,僕にとって至福の時だ。
でも,そんな至福の時は呆気なく幕を閉じるものだ。
通学路を行く僕は、静かに……,しかし強烈に襲ってくる下腹部の鈍痛と戦っていた。
(やばい・・・由美ちゃんの前なのに・・・)
額の脂汗が滴り落ちる。
学校まではあと五分程度の距離なのに。
このまま何事も無く過ぎてくれ。
(がんばれお尻!)
僕は心の中で呟いた。
「ねぇ、光くん。あのね……。光くんは、好きな人いる?」
由美ちゃんの唐突な質問に、僕はびっくりした。
それがいけなかった。
僕のお尻は緊張状態だ。精神的刺激は一瞬,緊張状態を決壊させかねない。
僕はお尻に力を入れる。
(う・・・頑張れ、お尻堤防!押し戻すんだぁ!)
全神経をお尻に集中した。絶対に決壊させてはならない。
堤防死守隊は頑張った。 押し寄せる鈍痛は一時的に引いていく。
「あぁ、好きな人ね。うーん、どうだろ。」
由美ちゃんが好きだけど,そんな急に言えるはず無いじゃないか。
「そっかぁ、実はね……,由美ね、好きな人いるんだぁ。」
――――突然の告白。
その刺激が再びお尻の緊張を刺激する。
(が……、頑張れお尻部隊。堤防を決壊させてはダメだ!)
僕は、再びお尻部隊に喝を入れる。
苦しさで呼吸がおかしいことになっているけど,由美ちゃんに悟られてはダメだ。嫌われちゃうかもしれない。ここはなんとしても平静を装うんだ。
「へー、そーなんだ」
もはや何を言っているのか,自分でもよく分からなくなってきた。
「どんな人か知りたい? 」
由美の瞳が輝いている。
知りたい。ものすごく知りたい。でも,今の僕にこれ以上の精神的刺激は危険だ。
(お尻堤防部隊から指令へ!お尻堤防の限界水域に到達しつつあります!至急、開門を要請します!)
(ならん!まだだ!まだ頑張れ!)
心の中で幻聴が聞こえるほどに苦しい。
でも,由美ちゃんの前だ。僕は再びお尻に力を入れた。
「ねぇ、光くん聞いてる?」
「あぁ・・・き、聞いてるよ」
鈍痛は、さらに増す。
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