鱗(ウロ)という猫

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ある日、それは雨が降っている時だった。 木ノ葉が家に帰ると、皆一様に暗い顔をしていた。 どうしたのかと聞いても、誰も答えてくれない。 木ノ葉は途端に不安になった。 何があったの? そして姉が、ようやっと重い口を開いた。 「…たった今、母さんが倒れた。」 木ノ葉は絶句した。 そして軽く首を振った。 「嘘。」 「嘘じゃない。」 「…嘘だよ。」 姉は首を振り冷静に言った。 「…脳梗塞だって。最近母さん、仕事忙しくてまともに寝て無かったの、木ノ葉だって知ってるでしょ?」 「…そんな…。」 「今から母さんの病院に行くから、木ノ葉も支度なさい。」 木ノ葉は言われるがままに支度すると、ふらふらとおぼつかない足取りで着いていった。 母さんは病院のベッドでぐったりと横たわっていた。 その横で、心電図がピッピッと音を立ていた。 お医者さんは言った。 最早手の施しようがないと。 愕然とした。 何も考えたくなかった。 木ノ葉は今に消えようとする灯火が少しでも長く消えないよう、手を握った。 …数時間後、重い沈黙の中で木ノ葉の母は静かに息を引き取った。
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