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翌朝部隊は一路インドへと飛んだ
ここで一度給油し再びシリアへと向かう
空輸中の飛行機の中で丈は想う
それは自分がよもや戦争と言う殺るか殺られるかの世界に身を置くとは夢にも思わなかったからだ
思い出すのは自分の息子の事だ
中東派兵の前に家族を霞ヶ浦駐屯地自衛官家族寮に呼んで家族共々暮らしていた…
家族寮内名取家宅…
嫁
「お父さん…今度の遠征は長くなりそうですか?」
丈は革靴を履きながら後ろ向きに答えた
「ああ…なんてったって相手はテロリスト集団だからな…
長引くかもしれん…」
妻
「……無事に帰ってきてくださいませ…」
妻は涙ながらに言った
丈は後ろを振り向き答えた
「ああ…むちゃはしないさ…
後は運があるかどうかだ
美登里…後は頼んだぞ」
美登里の背後から子供の声がする
丈は美登里越しにその声のする方を見た
そこには小学校1~2年生になろうかと思われる少年が元気そうにおもちゃで遊んでいる姿が見てとれた
丈
「悠の事も宜しくたのんだ」
少年が丈の出かける姿を見つけると駆け寄ってきた
悠
「お父さん行ってらっしゃい!すぐに帰ってくるよね
帰ってきたらまたサッカーして遊ばうよ」
丈は悠の頭を撫でると目線を合わすかのように目の前にしゃがみ込む
丈
「ああ…また帰ってきたら遊ぼうな
でも…お父さん今回はすぐには帰ってこれそうにないんだ
その間お母さんの言う事をよく聞いてすごすんだぞ
…それともし家に何かあったら今度はお前がお母さんを守ってあげるんだ
いいな」
悠は頭を横にふりふり答えた
悠
「なんで…?お父さんどこか行っちゃうの?」
美登里が背後から悠を抱きしめる
美登里
「お父さんはね…お仕事で遠くへ行くんで当分家に帰れないんだってさ」
悠は母親の顔を伝う涙を不思議に思っていた
悠
「ママはなんで泣いてるの?」
美登里は涙を徐に袖で拭う
美登里
「…ううん、なんでもないの…ちょっと目にゴミがね…」
丈
「じゃあ、行くよ…
坊主…元気でいろよ」
丈は自分の身と家族を案じながら家の扉を開け家を後にした
死が待っているかも知れないこの世の地獄へ向かって…
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