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「水と珈琲と茶、どれがいい? 」
「あ、お茶をおねがいします 」
僕の質問に部屋の中をキョロキョロと見回しながら答える。
「何か変なものでもあるか? 」
「いえ、とくに変なものは無いんですけど。貼っていたポスターが無くなってるからどうしたのかなって思ったんですよ。 」
がちゃん。手にしていたグラスが滑り落ちる。こいつが来たときからこの話題を避けることはできないと思っていたけど、まさかここまで早いとは思っていなかった。
「き、気分だ気分 」
あわてて取り繕う。
「気分……ですか? 」
不思議そうにこっちを見てくる。
「そう、気分 」
「気分、ですか。 まぁ確かにあのバンドのメンバー全員がかつらをつけていたとは思いませんよね 」
そう言いながらくすりと笑う目の前の少女。
「……知ってて来たのかよ 」
そういえば僕をいじるのが好きなこいつがこういう情報を得ていないはずがないか。 二三年間隠し続けてきた真実って大々的に報道されてましたよ、と言うこいつの顔は晴れやかだ。いつのまにか茶を入れて飲んでやがる、勝手なやつめ。
「ギターの人とかすごかったですよね。 あそこまできれいに無くなっているなら着けないほうがかっこいい気がするんですけど…… 」
ライブの時のことを思い出す。 あんなハプニングがなかったら僕はこんなに落ち込まなかったのに。 ポスターを剥がしたりもしなかった。 そんな僕の様子に気を払うなんてこともなく話し続ける。
「というかなんでわざわざ禿げていることを隠したりしたんでしょうね。 オフィシャルサイトにも情報は載ってませんでしたし……なにか心当たりとかありますか…って何でそんなにへこんでるんですか 」
僕が落ち込んでいるのにやっと気づいた。 こいつのことだから最初から気づいていて、僕の反応を見て楽しんでいたかもしれないが。
「……その程度だったんですか? 」
はぁ、とため息をつきながら聞いてくる。 顔をあげると真剣な顔で僕を見つめていた。
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