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「ふう、やっと着いた」
そういいながらぼくは新幹線から降りた。何日かぶりに地面に立つ気がする(実際には、3時間程度なのだが)。
今日、なぜぼくはここにいるのか。それは、ぼくが昔からファンだったバンドのライブのチケットが手に入ったからだ。メンバー全員が60歳以上な上、様々なジャンルの曲が弾けるという、スーパーバンド。親父にも見習わせたい。なにをって? それはまぁ、頭に生えてるヤツのことさ。あの方達はフサフサなのに、50になってない親父はツルツルだ。恥ずかしいという理由でヅラを被ってるけどダサくて見てるこっちが恥ずかしくなるからやめてほしい。…話しがずれたな。まぁ、いいか。
いろいろと考えているうちに会場に着いた。ステージの周りにはたくさん水道管のようなものがついていて、先がシャワーみたいになっている。いったい何なんだろう?ライブをみたらわかるかな?
ライブが始まった。一曲目、二曲目と進むうちにぼくを含めた観客達の気持ちは高揚していった。そして…
最後の曲。
「とうとう残すはあと一曲となりました」
ボーカルは言う。
「この曲は、様々なことに苦しんでいる人や悲しんでいる人達に贈る曲です。
こころに冷たい雨が降っていると、人は、とても弱くなります。ですが…だからといってその雨に負けてはいけません。負けなければ雨が止んだ後に、綺麗な虹を見ることができます」
その言葉を聞いて、ぼくはとても感動した。
「それを伝えたくて、この曲を作りました。曲名は‘レインボウ’」
曲が始まった。少し悲しい感じの曲だ。曲が始まると同時に水道管から水が出てきて、まるで雨のように会場にいる人達に降りそそいだ。中頃になると水の出される量が多くなる、曲も激しくなった。曲ももう終わりかという時、ステージの方に向いていた水道管のシャワー部分が外れ、水が勢いよくバンドのメンバーに向かって落ちていった。
出ていた水はすぐに止められ、観客達は心配そうステージを見つめた。ステージには、綺麗な虹がかかっていた。だがその虹の下に立っているのは見たことのないハゲ頭のおっさん達だった。一人の観客は気付いた。彼らの足元には毛のようなものがあるということに。
そう、彼らはヅラ被っていたのだ。
いつのまにか会場の熱気はなくなり、変なものを見るような冷たい視線でいっぱいになっていた。
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