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「……何がだよ 」
何で急にシリアスになるんだ、意味がわからない。
「あなたのあのバンドへの想いはその程度だったんですかって聞いてるんですよ 」
「どういう…… 」
「子供の頃から馬鹿みたいに同じ曲ばかり聴いたり、学校の授業中も先生の話も聞かずに歌詞を覚えようと何度も何度もノートに書きなぐったり、お年玉も少ない小遣いも使わずに貯めこんで扱えないのにシグネイチャーモデルを買って嬉しくて泣きそうになったり、少しでも追いつこうとずっとギターを弾き続けて腱鞘炎になりそうになったり、音楽の大会でいい結果を残せなかった時にバンドの人から激励の手紙をもらって狂喜乱舞したりしてたあなたの思いはたったあれだけで消えてしまうようなものだったんですか? 」
一気に話して疲れたせいか、肩で息をしているがその目は僕のほうをしっかりと見つめ続けている。 なんであのバンドを好きになったのかを思い返す。 初めて彼らを知ったのはとある音楽番組。 その頃の僕にとっては独創的だった曲にただただ圧倒された。 あまりにも強く印象に残っていたからどんなバンドなのか調べてみたら、親父と同世代の人たちだと知って驚いたのと同時に憧れた。 同じ人間なのにこうも生き方が変わるのかと。 自分もこんな大人になりたい、そう思って少しでも近づけるよう努力した。 どんどんこのバンドに熱中いていった。 心酔していたと言ってもいい。 なのに
「なんで全員が禿げを隠してたんだよ…… 」
どんなことに対しても真っ向から挑んでいくという彼らのポリシーだったのに、 自分たちの真実には足を踏み出そうとしないばかりか、背を向けていた。 そう思ったから嫌になったんだ。
「じゃあ、嫌いになったわけではないんですね? 」
独白する僕にそう聞いてきた。
「……嫌いには……なってない、と思う 」
僕の答えを聞くと、笑顔になって
「なら見届けましょうよ、あのバンドがどうなっていくのか。 嫌いになるかどうかはその後考えてみたらいいじゃないですか 」
オフィシャルサイトをのぞいてみましょうよ。 そういってパソコンを立ち上げる少女を見ながら思う、それもそうだ、見るだけ見てみようと。
「お前ってたまにいいやつだな 」
「たまにってなんですか。 私はいつでもいい人ですよ 」
僕の言葉に口を尖らせながらも嬉しそうに答え、オフィシャルサイトのリンクを開く。
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