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「旅人②」
鐘の音が聞こえる
町はひっそりと
石造りの家々が立ち並び
人々は
1日の祈りをすませ
既にその門戸を締め切っている
北風が吹き荒れ
その窓を乱暴に揺らし
木々に眠りの季節を告げていた
そんな片隅に
小さな少女が横たわっていた
顔は真っ青で
その灯は尽きていた
いつのまにか風は止み
旅人が通りかかった
男は宿をさがしたが
もう開いている宿はなかった
仕方がなく野宿をするつもりだった
すると雪がうまく当たらない場所を見つけた
少女の脇である
男は少女を見つめ
息がないことを確認すると大きな毛布を羽織った
眠るわけにはいかなかった
すると様々な思いを巡らした
町のこと
宿について
建物について
次第に
自分のこと
故郷のこと
死んでいく人々
少女
親兄弟
旅の理由
別れた
あの人
微笑み
それらは渦を巻いて
男に襲い掛かった
男はそれらに冷静に対処しようとした
そう
いつものことだ
ただ耐えればいい
風が
雨が降り止むまで
いつも通りに
眼をあげると
空がしらみ始め
鐘の音が響き
少女はそこにいた
自分だった
男は立ち上がると
彼女を毛布で包み
教会の前に遺体を置いた
簡単な祈りを捧げ
男は立ち去った
町はいつも通りに
戻っていった
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