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バシャア!!
少年は、バケツいっぱいの水をかけられて全身がびしょ濡れになった。
そんな少年を見て、みんな…楽しそうに笑っている。
少年の名前は…
『藤田 香(フジタ カオル)』
16歳。
高校一年生。
身長163㎝。
やや長い黒髪、大きな二重の目。
細身で色白。
女のような名前だが、れっきとした男だ。
薄汚いトイレの隅で、びしょ濡れの彼は…イジメを受けていた。主犯格のクラスメイト『草野』がカオルに言う。
草野「今日も、残暑厳しいよなぁ~こんな日は、水をまいて少しでも涼しくしなくちゃ…なぁ?」
ビシャアァァァァ!!
草野の仲間が、蛇口にホースを付けて水をまく。
カオルは、顔面にその水を浴びせかけられる。
カオル「…や、めて…」
小さな声で言ったが…草野とその仲間達の笑い声でかき消されてしまった。
三時間目の授業が開始される頃には…教室にカオルの姿はなかった。
教師「…藤田はどうした?」
草野「具合が悪いって言って早退しましたぁ~」
教師「また、無断で早退か!?一体、あいつは何を考えているんだ…」
・
・
・
カオルを助けてくれる人間など、学校には一人もいない。
ブレザーを小脇に抱え、バッグからハンカチを取り出して顔を拭く。
空を見上げると、青く…澄みきっている。
カオル「空は、あんなに青いのに…僕はいつも曇ってる。僕の世界は、真っ暗だ…」
おっとりとした性格の彼は、嫌な事でもハッキリと言えなかった。そんな性格が災いし…最初のうちはからかわれ…それがじょじょにエスカレートしていき、今にいたる。
親は、共働きで二人共帰りが遅い。成績優秀なカオルの事を、あまり心配してはいない。
親に心配をかけたくないカオルは、イジメられている事を告げられずにいた。
カオルが唯一心を許せる人間は、幼い頃から知っている近所の骨董品屋のお爺さんだけだった。
自然とその足は、骨董品屋へと向かう…
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