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カオルは、骨董品屋に入る。
木造の小さな店。今時、入口が自動ドアじゃない方が珍しい。カオルは、そんな店の雰囲気と埃臭くならないように、店主のお爺さんが薫いているジャコウの香りが、たまらなく好きだった。
店の奥には、やせ気味で白髪のお爺さんが眼鏡を拭いている。
お爺さん「おぉ…カオルちゃん。今日は、ずいぶん早いね…学校はもう終わりかい?」
カオル「うん…今日は、試験だったから早く終わったんだ」
お爺さんは、杖をつきながらカオルの元へ歩み寄る。
お爺さん「どうしたんじゃ?ずぶ濡れじゃないか…ちょっと待ってなさい」
お爺さんは、タオルを持ってきてカオルに手渡した。
カオル「ありがとう。さっきの通り雨で、濡れちゃったんだ」
お爺さん「はて…雨なんか降ったかのう…まぁ、えぇ…さぁ、それで拭きなさい」
洗剤の香りがするタオルに、顔をうずめた瞬間…
涙が、こぼれ落ちた。
お爺さんに、気が付かれないように…念入りに顔を拭く。
お爺さん「カオルちゃん、いい物を見せてあげよう」
小さな箱から、お爺さんは赤い石を取り出した。
カオル「それ…宝石?」
お爺さん「いやぁ…宝石商の友人にも鑑定して貰ったんじゃが、何だか分からんと言われたよ」
宝石のように、輝く石。カオルは、その美しさに魅入られていた。
お爺さんは、ニッコリ笑って赤い石をカオルに差し出した。
お爺さん「カオルちゃん、持っていきなさい」
カオル「え!?」
あまりに突然の事で、カオルは驚きの声をあげた。
お爺さん「カオルちゃんは、よく店に来て色々買ってくれるが…その石を見た時の顔は、小さい頃…綺麗な緑色の皿を手に取った時と同じ顔じゃったよ」
カオル(小学三年の頃…初めて父さんに連れられ、ここを訪れた時…すごく綺麗な皿を見つけたんだ。母さんの誕生日が近かったから、すごく欲しかった。翌日、お小遣いを前借りして訪れた時には…売れてしまっていた)
お爺さんは、カオルにそっと石を手渡した。
お爺さん「拾い物じゃから、価値があるかどうかは分からんが…カオルちゃん、誕生日もうすぐじゃろ?これは、ワシからのプレゼントだよ」
自分の誕生日を、祝ってくれる人がいる。
今度は、隠す事なく泣いた。
嬉しくて…泣いた。
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