第一章 「テンキ」

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「おはよー。」 そう言われたのは僕で、言ったのは御神娘(みかみむすめ)、つまりみじんこ。 そしてそのまま僕の後方から抱きつく。 僕は横を向き、そこにあるであろうモノに目掛けて唇を重ねる。 これが僕が毎朝行う社交辞令。 「んっ、今日の時間割は特別で、卒業式がありますよ~♪2,3時間退屈しながら立っていればOK!でも、式中やる事があるからちょっと離れちゃうね・・・。」 と、紡いだ言葉が必要とするであろうそれとは矛盾する声色でみじんこは耳元で囁いた。 なんだ?卒業式がそんなに嬉しいのか? とまあさすがみじんこ、いくら浮かれていても日程確認後は僕の拘束を解く。 「いただきます。」 朝の清涼感を味わいながらみじんこの用意した質素にしてありふれた日本の朝食を摂る。うん、うまい。 「御馳走様。」 「どうでした?」 「いつも通りだ。」 「そうですか。」 普通の家庭ならこの会話なんてそう大したもんじゃないが、みじんこは漫画の効果線が見えるくらいぱぁーっと顔がほころぶ。 “いつも通り”の完璧な食事を用意出来たことを褒められたからだ。 それにしても、今日は卒業式か・・・ふむ。 旅支度はいつもの通りみじんこが僕の分までやってくれているが、まあ、今日の通学鞄はいつものようにほぼ空っぽだ。 「それでは今日も登校しましょう。」 みじんこが先に玄関を出ると晴れなのに小雨が降っていた。
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