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ちぃと犬
次の日から俺はとにかくちぃに辛く当たった。
理由なんて自分にもよくわからない。
いつも教室で独り過ごすちぃは俺と同じだって思ってたから、そうじゃないって知って勝手に裏切られた気持ちになったのかもしれない。
そんなの自分勝手だってわかってる。
あいつが俺と同じだって言ったわけじゃないのに…。
そんなこと考えながらちぃを見ると、何だかちぃの様子が違う。
そわそわとして落ち着きがない。
俺が近づいて行くとびくっとした顔をして、ちぃはますます小さくなる。
「何だよちぃ。今日はやけにソワソワしてるな」
俺の言葉を聞いてクラスの奴らも近寄ってきた。
「どうした?今日は待ちに待ったママの帰ってくる日か?」
「帰ってくるわけないさ。こいつ捨てられたんだ。犬と一緒さ」
口々にちぃを笑いものにする。
ちぃは下を向いて小さくなっている。
「違うよ…。今日はわんちゃんに会いに行こうと思って…」
消えそうな声で呟く。
「犬だってさ。捨て犬の親は確かに犬だ」
周囲から笑いが起こる。
ちぃは下を向いたまま肩を震わせていた。
ちぃに向けられた言葉がそのまま俺のことを指してるみたいで、たまらなくなる。
「こんなやつ放っておいて遊びに行こうぜ」
そう言って俺は教室の扉に向かって歩き出した。
慌てたように、他の奴らがついてくる。
視界の隅にうつ向いたままのちぃが映る。
傷つかないわけじゃない。
我慢して笑顔で過ごしたって心は傷だらけだ。
自分が率先して辛く当たってるくせに、他の奴らが辛く当たるのが許せなかった。
海とじいちゃんに会いたい……。
こんなワケがわからない気持ちは消したい。
追い掛けてきた奴らを置いて俺は川沿いの道を走った。
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