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川沿いの道をじいちゃんの家まで走り続けた。
ちぃがあの日楽しそうに話していた橋の下。
視界に入れないように目を反らして走り続ける。
見えない何かに追われるように。
見えない何かから逃げるように…。
橋を通り過ぎてすぐにじいちゃんの家が見えてくる。
いつものように走り出てきた海を目にして、俺はようやく走るのを止めた。
海のあったかい体を抱きしめて顔を埋める。
そうしないと、自分がバラバラに砕けてしまいそうだった。
海はただただじっと俺に寄り添っていた。
茶色だった毛並も大分白くなっていることに気付く。
ばあちゃんが死んでじいちゃんは独りぼっちになった。
寂しいだろうって母ちゃんたちは保健所で薬殺されそうになってた海をもらってきたんだ。
捨てられて、命さえ奪われそうになってた海。
ばあちゃんが死んで涙が枯れるほど泣いたじいちゃん。
だけどあの日からじいちゃんと海は二人ぼっちになった。
母ちゃんも父ちゃんも海を与えて満足したように、じいちゃんをほったらかしにしてる。
それが俺には許せない。
だけどじいちゃんは一度だって寂しいなんて言わない…。
海と家に入って行くとじいちゃんは笑顔で迎えてくれた。
俺は海にくっついたままじいちゃんに尋ねる。
「ばあちゃんがいなくなってじいちゃんは寂しくないの?」
じいちゃんは俺をじっと見てから答えた。
「寂しくはないさ。海も陸もいるじゃないか。ばあちゃんには二度と会えないとわかっているからな。寂しくないさ」
「二度と会えないってわかってたら余計寂しくならない?」
「わかっていれば大切な思い出を抱えて生きていけるもんだ。会えるはずなのに会えない方が辛いもんだよ」
頭を撫でながらじいちゃんが俺を見る。
いつもいない俺の父ちゃんと母ちゃん。
待ち続けても帰って来ないちぃの母ちゃん…。
生きてこの世界にいるのに…。
ばあちゃんみたいに死んじゃったわけじゃないのに…。
「俺…寂しいんだ」
あまりにじいちゃんの言葉の意味が分かりすぎて、我慢してたものが一気に溢れ出た。
口にした途端後から後から涙が出てきて止まらない。
海の体温とじいちゃんのあったかい手。
俺は生まれて初めて思い切り泣いた。
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