13人が本棚に入れています
本棚に追加
命の価値
次の日の放課後、宿題を出さなかった俺は先生に呼び出された。
「忘れました……」
先生を前に下を向いて答える。
結局家に帰ってからも"家族の絵"なんて描けなかった。
陽が落ちかけた放課後の教室。
下を向いてたのは先生が怖かったからじゃない。
顔を上げたら、ヨレヨレしてるのに妙に幸せそうなちぃの絵が目に入るからだ。
先生は怒るわけでもなく、俺の頭をぽんぽんと叩いて笑った。
「先生は陸の気持ちわかってやれてなかったなぁ」
それだけ言うと先生は教室を出て行った。
俺の気持ちなんて誰にもわかるわけない。
だって……。
わかって欲しいくせに誰にも本当の気持ちなんて言わないんだから……。
ちぃの絵が視界に入らないように下を向いたまま、教室を出た。
家までの帰り道。
スーパーのレジで笑顔を振り撒く母ちゃんが目に入った。
久しぶりに見る母ちゃんの笑顔。
記憶の中の母ちゃんは哀しそうに俺を見つめている。
無意識に走り出す俺。
じいちゃんの家の前。
走り出てくるはずの海はいない。
「じいちゃん……?」
呼びかけて玄関をくぐるけど、反応はない。
唯一の逃げ場だったじいちゃんの家。
縁側を覗くとじいちゃんが心配そうに海を覗きこんでいる。
「海どうかしたの?」
じいちゃんの横に座り海を覗き込む。
「おぉ、来てたのか。何、朝から食欲がなくてな。わしと同じで海も年だからな」
海の頭を撫でると尻尾が左右に揺れた。
「海は陸が大好きなんだなぁ」
じいちゃんが嬉しそうに笑う。
「俺…、じいちゃんや海が死ぬのは嫌だ。父ちゃんも母ちゃんもいらない。だけどじいちゃんや海がいなくなるのは嫌だ…」
そう言って海を抱きしめる。
そんな俺に向かってじいちゃんが呟く。
「命の価値は同じ。命に値段はつけられない。なのにどうして助けようとしないのか…」
「じいちゃん?」
突然の言葉に意味がわからなくて俺はじいちゃんを見つめる。
「昔お前の父ちゃんに言われた言葉さ」
哀しそうに呟くとじいちゃんは下を向いてため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!