命の価値

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記憶の中のばあちゃんはいつでも元気で優しかった。 そんなばあちゃんが突然倒れたのは、街外れの丘に紫陽花が咲き乱れる季節。 病院に運びこまれた時にはすでに意識もなくて、昨日まで元気だったはずのばあちゃんは機械に繋がれた人形だった。 泣きそうな顔の母ちゃんに連れられて初めて入った病院。 ばあちゃんはもう笑ってくれないんだって気付いて、涙が止まらなかったのを覚えている。 それから少しの間ばあちゃんは眠り姫のように眠り続けてやがて永遠の眠りについた。 あの頃から父ちゃんも母ちゃんも家にあまり帰って来なくなったんだ…。 ただ命を繋ぎ止めるだけの時間。 手を握り続けたじいちゃん。 『ばあちゃんは幸せだったのかな?』 そう聞いた俺にじいちゃんは涙を一杯溢しながら言った。 『幸せだったと伝えることも出来ずに逝ってしまったなぁ。けどな、わしは幸せだった。だからばあちゃんも幸せだったと今は信じてやりたいなぁ…』 そんな事を思い出してた俺にじいちゃんは呟いた。 「お前の親が帰ってこないのはわしとばあちゃんのせいだ。ばあちゃんが倒れてもう二度と意識が戻らないと知った時、わしはこのまま死なせてやってくれと言ったんだ。莫大な医療費をかけて辛い思いをさせるならいっそのことと思ってな。そしたらお前の父ちゃんは泣いてなぁ…」 じいちゃんは俺と海を交互に見ながら話し続けた。 「命の価値はみんな同じ。命に値段はつけられない。なのにどうして助けようとしないのか…。そう言ってお前の親はばあちゃんにやれる限りの事をしてくれた。お前を放って働き続けなければいけない程のお金がかかってしまったけれど…」 初めて聞く話に俺はどうしていいかわからずうつ向いた。 笑顔で働く母ちゃん。 ずっと帰って来ない父ちゃん。 命の価値は同じ。 だったらどうして俺は独りなんだろう…。 だったらどうしてちぃは置いて行かれたんだ…? 「価値なんて勝手に大人が決めるんじゃないか…」 無性に腹が立って、無性に哀しくて俺はじいちゃんの家を飛び出した。 誰かが悪いわけじゃない。 ばあちゃんを救って欲しかったのも事実だ。 だけど…。 だけど……。 俺は心のどこかで自分が犠牲になったって、そんな風に思ってしまったから。 こんな気持ちじいちゃんに知られたくなかったんだ…。
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