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アメリカ最大の都市ニューヨーク、様々な人種、様々な人生が交錯するこの街で、マフィア全盛時代に暗躍したある男の話をしようと思う。
ニューヨークはマンハッタン…その一角にヘルズ・キッチン…地獄の台所と呼ばれる地区がある。
住民は種々雑多でアイルランド系、イタリア系、プエルトリコ系、東欧系…
街の治安は極めて悪く、人々の暮らしは過酷だった。
1910年のある日、安アパートの一室で皆殺しにされた家族が見つかった。
殺された男は街の港湾労働者、若い頃はチンピラだったが、堅気になってからは誰に対してもわけ隔てなく接し、家庭では優しき父だった。
一家は貧しいながらも、幸せに満ち溢れた生活を送っていた。
一家が皆殺しにされるとは誰にも信じられなかった。
男はこの界隈では誰からも愛されていたからだ。
…ある日、彼はマフィアの殺しの現場を目撃してしまう。
この時代はマフィアの世代交替が進み、ニューヨークのあちこちで抗争が繰り返されていた。
そして、その犯行を証言するという、勇気ある行動が彼の命を奪うことになってしまった。
…男は至近距離から頭に5発の弾丸を打ち込まれ、血まみれになって寝室に横たわっていた。
その傍らには彼の妻、そして5歳の娘の死体が転がっていた…誕生日の2週間後のことだった。
当時7歳の息子はベッドの下で息を潜めて難を逃れることが出来た。
この事件に人々は大いに悲しんだが、唯一の身寄りを目の前で無残に殺された息子がその後どうなったのか、知る者はいなかった。
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