姫君の誕生

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 とある一室に産声が響く。そして沢山の人々の歓喜の声。  一人の女性が嬉しそうに叫んだ。 「女の子!女の子が産まれたわ!」 「ああ、そうだな………」  そしてがっかりしたような男の声。二人はそれぞれ“王妃”と“国王”と呼ばれていた。  何故、その国王がガッカリするのか、それは……… 「あなた! 賭けは私の勝ちね! 私が名付け親よ!! 文句はないわね!?」 「くっ………。仕方がない…………」 二人がしていた賭け事の内容に理由があった。  賭けの内容は他愛のないこと。 “息子が産まれるか、娘が産まれるか”である。  そして、その代償はただひとつ。 “我が子の名前の決定権”である。 「なぁ、今からでも遅くないから二人で一緒に……」 「あなた。自分から言ったことを覆【くつがえ】すつもり?」 「うっ…………仕方ない………」  呻き声をあげる夫に満足げに微笑み、彼女は辺りを見回す。ちいさな命が産まれたこの部屋にあるものから名前をつけたいのだろう。  彼女は注射を見た。小さく首を振る。 診察台………、却下。 ベッド…………、悩んだようだが却下。  そして、絶えず辺りに視線を振り撒く彼女が不意にこちらを見て、彼女は小さく微笑んだ。 《ん?》  私は驚いた。  まともに人と視線を交わしたのは数十年振りか。 「そうね、こんな名はどう?」  その日、生まれたばかりの小さな命、後の偉大なる命に一つの名が与えられた。 その名は、レイ・ティ・ハーツ。  後の世界に、大きな変化をもたらす人物となる。
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