奈落の穴

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――その天使は、言った。 『あなたはこれから、奈落の穴に落ちます』、と。 是非もない、と俺は思った。 受験に失敗して、引き込もってるだけの人生。 それを変えられるなら、奈落の穴にだって落ちてやる。 ――天使は、嬉しそうに笑って。 『あなたは、どこまで耐えられますかね』、と。 悪魔のように、微笑んだ。 そうして俺は、穴に落ちる。 暗い。 何も見えない。 自分が闇に溶けて無くなるような錯覚。 一つ目の出口が見えた。 だが、無視。 止めるにはまだ早すぎる。 落ちる、落ちる。 だが、次の出口は見えてこない。 ……ふと、不安になる。 本当に、次の出口はあるのだろうか。 自分の思考にゾッとしている間に、二つ目の出口が見えた。 少し躊躇ったが、スルー。 まだ二つ目。まだ出口はあるだろう。 だが、三つ目の出口はいつまでたっても顕れない。 ……大丈夫。 さっきと同じ。 きっと、段々と出口の間隔は遠くなっていく。 ……けど、もしかして。 もしかしたら、本当はもう出口は無くなってしまったんじゃ……? だが、そんなことはなく。 三つ目の出口が見えた。 しかし、通り過ぎる。 帰りたがる体を、欲望が押さえ付けた。 落ちる、落ちる……どこまでも、落ちていく。 まだ四つ目の出口は見えない。 当然だ。出口の間隔は遠くなっていくのだから。 けれど、もし、もしも、次の出口は無いとしたら……? 「……ああ」 ふと、後悔した。 たぶん、四つ目の出口はあるだろうけど。 そこに辿り着くまでに、俺は正気でいられるのか。 『もしかしたら出口は無いんじゃ』、という恐怖に、耐えられるのだろうか。 ……足元を見る。 そこには、どこまでも続く奈落の闇だけがあった……
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