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「それは…あんたが決めることでしょ…」
守の声に少し動揺したのか、声のトーンが下がっている。
「俺が決めることなら何であんたそんなにしつこく言ってくるんだよ。どうせ担任としての見栄だろ?体裁なんだろ?」
「違う!」
守が言い終える前に否定したユッキー。
「あたしはあなたに本当にちゃんとした道を歩んで欲しいからこうして……」
ユッキーの言葉は途切れた。これを境に場は暫く沈黙する。そして数十秒が経ったあと、守は優しいトーンで声を発し、
「まぁ、も少し時間くれよ」
そう言うと守は、ゆっくりと歩き出す。
「あ…」
ユッキーは追い掛ける術を見出だせなかったのか、ただ立ち尽くして守の背中を眺めていることしか出来なかった。
校庭。日は落ちかけ寸前。辺りの色彩を呑むかのように校舎内はオレンジ色ただ一色に包まれていた。
そんな中、何やら独り言を呟いている男子生徒発見。守くんだ。
「わかってる…わかってる…」
まるで自分に言い聞かせているかのように、同じ語句を繰り返している守。恐らく、さっきのユッキーとの一件だろう。自分でも気付いていないかのように口からこぼれている。
ユッキーの口から出た言葉は真実だろう。本当に守のことを思っているはずだ。何故なら、口煩くは言っているが、最終決断は守に委ねている。体裁を気取る先生なら、進路が決まるまで帰さないというような強引な手段に出るだろう。しかしユッキーは守をそのようなもので縛っていない。あくまで自分で決め、自分から言ってくるのを待っているのだ。
守も、ユッキーがそういう先生ではないと分かっていたが、追い詰められた状況下でやり場のない矛先がユッキーに向いてしまったのだ。
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