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「よしっ」
泡まみれだった犬を洗い終え、この少年、紫苑は、すがすがしい表情で額の汗を手の甲で拭いながら立ち上がった。
日差しが眩しい。
煌めき、輝いている…。
あの頃…聖都市NO.6に住んでいた頃では、恐らく決して思いもしなかっただろうし、気にも留めなかった、太陽の眩さ。
その輝きに目を細め澄みわたる空を仰いでいた紫苑は、ふと視界をかすめた漆黒の髪に目を向けた。
「ネズミ」
慣れた名前を口にする。
ネズミと呼ばれた、紫苑と年齢は変わらないこの少年は、昔はホテルだったというこの廃虚の瓦礫の一部に腰掛け、紫苑を観察していた。
「仕事中だろ。手を休めるな」
「今終わった。後はイヌカシに報告…あ、イヌカシは出かけてるんだったかな」
だから、と――
「一緒に帰ろう」
躊躇いもなく、誘いを口にする紫苑に、ネズミはいつもながらに苦笑を漏らす。もちろん紫苑はそれを首を傾げて不思議そうに見るだけ。
そんな紫苑に、行くぞと軽い声を掛けて、ネズミは帰路へつく。
紫苑も犬たちに別れを告げて前を歩く背中を追った。
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