133人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぁ、ネズミ」
ふと紫苑が後ろから声をかけた。
ネズミは返事をしない。それでも紫苑は、ネズミが聞いている事をちゃんと分かっているから、気にせずそのまま続ける。
「この前、イヌカシに髪を褒められた」
声色から、表情が見えずとも紫苑が嬉しそうなのが伝わる。
ネズミは歩く速度を緩めて、紫苑と並んだ。
「だから」
「え?」
「だから、どうかしたのかと聞いてる」
「うん。…ただ嬉しかったから、言っただけだ」
にこり、と。
一寸の濁りもない、純粋に嬉しそうな表情。
思わず吹き出した。
「なっ、何だよ」
「いや…何でもない」
「なら何故笑う?」
クスクスと、未だに笑いを堪えるように笑い続けるネズミ。それを気に入らないように身長の差から僅かに見上げるように見る紫苑。
特に理由がないのにこんなに笑われて、意味が分からない。
自分は何かおかしな事を言ったかと、頭の中で模索する。
だが特に思い当たる節はなくて。
「だからあんたは天然だって言うんだ」
「またそれか…」
ややむくれた紫苑に、ネズミは再び吹き出した。
最初のコメントを投稿しよう!