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「大事な話があるんです」
いましがた、卒業式は終わった。私は今、たった一人のホームクンの視線を一身に受けとめている。
「なになに?」
この真剣な表情は、彼が『部屋と現金と僕』について三時間語りやがった時と同じ、もしくはそれ以上だ。私は身を乗り出して耳を傾ける。ホームクンは一つ大きく深呼吸をすると、ゆっくりと話しだした。
「僕はずっと、先輩の事、正確には先輩が持っている現金いわゆるキャッシュを見てました。歓迎遠足の時、あの、先輩が現金、ぶちまけた時ですけど……先輩、笑ってましたよね。正直、ネ申かと思いました……でも、パチンコ中ずっと、千円札をサンドに入れる手が離れなくて……」
私は驚いて、あんぐり口をあけたまま、身動き一つ取れなかった。
「3万負けました……先輩が僕に話し掛けてきた時、心臓が飛び出すかと思った。体育祭のあと、競馬、見に行きましたよね? 覚えてます?」
「……私のお金で5万すったよね、君」
腹立つやら、恨めしいやらで、なんだか体が熱い。全身の血が逆流してるような、そんな感じだった。
ホームクンは顔を真っ赤に染め上げて、少し顔をうつむかせた。あぁ、お金目当てだな、とは、さすがの私も感付いていたけれど。
「あの競馬みたいな、熱いセリフは言えないけど、僕は、僕の瞳は、いつだって、先輩の現金いわゆるキャッシュだけを見ていました」
そしてもう一度、私の瞳をまっすぐに捕らえた。
「先輩の現金いわゆるキャッシュの事が、ずっと好きでした!」
私はたまらなくなって、後輩クンをぶっ飛ばした。
BADEND 君の瞳に現金
……振られてしまいました。しかしこれで『愛でお金は買えない』ということがよくわかりましたね。あきらめてコツコツ働いた方が身のためです。
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