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「この間、先代の領主が亡くなられたのよ」
道すがら、イリーナはキリエに説明をする。もう片方の手は、不安そうなティルの手をしっかりと握っていた。
アノは、あちこちふらつきながら着いて来る。
二人の家のある裏道の入り混じった区域とは違って、大通りは綺麗に整備されていた。整然とした石畳は、馬車も車輪を引っ掛けることなく通ることが出来る。
夕方のこの時間には、各々の家から夕飯時の煙が出ていた。子供たちは腹を空かせて家へと帰り、露店も店仕舞いをしている。二人はこの街の人々に人気のようで、小さな女の子からお爺さんまでみんな手を振ってくる。
アノはいつの間にか誰からか獲得した、パンが入ったカゴを手にしていた。
キリエは、イリーナの言葉に疑問を覚える。なんの関係があるのか、さっぱり分からなかった。
「でも、領主なんて、街医者には関係ないんじゃ」
「それがね、関係あるのよ。前領主は長いこと病気だったらしいのだけれど、誰も治すことが出来なかったの。だから、街でも評判の医者を呼んだっていう話。領主お抱えの医者にしてみれば、情けない話だけれど」
「あれ? 先代の領主って結局亡くなられたんだよね?」
イリーナはため息をついた。どうやら、ややこしいのはこれかららしい。
「そう、亡くなったの。街医者が見に行った直後にね」
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