第一章 ゼルセガイアの精霊 前編

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「この間、先代の領主が亡くなられたのよ」    道すがら、イリーナはキリエに説明をする。もう片方の手は、不安そうなティルの手をしっかりと握っていた。  アノは、あちこちふらつきながら着いて来る。  二人の家のある裏道の入り混じった区域とは違って、大通りは綺麗に整備されていた。整然とした石畳は、馬車も車輪を引っ掛けることなく通ることが出来る。  夕方のこの時間には、各々の家から夕飯時の煙が出ていた。子供たちは腹を空かせて家へと帰り、露店も店仕舞いをしている。二人はこの街の人々に人気のようで、小さな女の子からお爺さんまでみんな手を振ってくる。  アノはいつの間にか誰からか獲得した、パンが入ったカゴを手にしていた。  キリエは、イリーナの言葉に疑問を覚える。なんの関係があるのか、さっぱり分からなかった。   「でも、領主なんて、街医者には関係ないんじゃ」   「それがね、関係あるのよ。前領主は長いこと病気だったらしいのだけれど、誰も治すことが出来なかったの。だから、街でも評判の医者を呼んだっていう話。領主お抱えの医者にしてみれば、情けない話だけれど」   「あれ? 先代の領主って結局亡くなられたんだよね?」    イリーナはため息をついた。どうやら、ややこしいのはこれかららしい。   「そう、亡くなったの。街医者が見に行った直後にね」
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