第一章 ゼルセガイアの精霊 前編

14/40
前へ
/55ページ
次へ
「リアン。玄関先で声を荒げるなんて、どうしたの?」    奥からかぼそげな声が聞こえて来る。   「お母様!」   「奥方様……」    その声に二人が同時に反応した。ティルはすぐにその人物のところへ走って行く。その表情には、今まで見せていた不安などなく、ただ満面の笑みがあった。   「お母様、起きていても大丈夫なの?」   「少しなら、大丈夫よ。ティル、こんなに遅くまで外にいちゃダメよ」    ティルの、はいと返事する声が聞こえる。穏やかそうな人であった。   「奥方様、本当にすみません。だって、この方たちが、ご主人様のいない間を狙って……」    扉まで来たティルの母は、キリエたちに向かって微笑んだ。茶色の髪が一筋肩にかかっている。肩掛けをまとったその肩は細く、真っ白な肌はいかにも病弱そうだが、しっかりとしたあしどりは芯の強さを感じさせた。   「まあ、お話はちゃんと聞いたのですか?」
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加