11人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや、あの、こちらがいきなり尋ねて来て、信用しろというのが無理な話ですので……。でも、話を聞いてくれるというのなら、嬉しいです。お邪魔致します」
イリーナの言葉にも戸惑いが混ざる。今度は、アノも何も言わなかった。
応接間に通される。皆が机についたあと、リアンが冷たい紅茶を持って来た。
上品な香りが漂う紅茶には、貴重品である砂糖も添えられていた。陶器で出来たカップには、可愛らしい草花が描かれていた。こんな高そうなものをイリーナが持てるはずもなく、一目で気に入ってしまった。
アノは未だにリアンに敵意を持っているようであった。睨みつけることはなくて、拒絶の意思を全身で表している。リアンは立派な侍女らしく、それに対して何も反応しなかったが。
ティルの前には、果実水を置く。果物の果汁を絞った、甘くて冷たい夏にはぴったりの飲み物だ。お金持ちの家らしく、細かく砕いた氷まで入っている。
「お話、というのを、聞いてもよろしいですか?」
ティルの母が静かに口を開いた。
「この度のご主人について、ティルからお話を聞きました。それで、ちょっと思い当たることがありまして」
「治療に際して何か間違いを起こしたのか、それとも……、毒殺か。近所でも噂されているのです。そのせいで、リアンも過敏になってしまっているのですが」
最初のコメントを投稿しよう!